Dynamometer
画像引用元:WIKIMEDIA COMMONS

[概要]
 機械構造物を設計する際に、最も基本的な特性である降伏点、引張強さ、伸びといった特性を明らかにするために規格(JIS規格)によって決められた形状の試験片を用いて付与する荷重と変位の関係(荷重-変位線図)を求めるための試験です。接合継手の引張特性を求める場合は、構造物の実際の使用環境下での入力として想定される負荷モードを考慮して、せん断方向、剥離方向の特性を各々別途求めることが多いです。

[特徴]
 降伏点とは材料が弾性変形の限界点、塑性変形を開始する点のことを言い、降伏点を越えると塑性変形を生じます。弾性変形とは荷重を除荷すると変形が解放されて元に戻る状態です。一方、塑性変形とは荷重を除荷しても変形が残存し、完全には元に戻らない状態です。一般的に構造物は降伏点にもとづき安全率を考慮して設計されます。さらに、構造物の設計の際に必要となる材料特性として、引張強さ、伸びがあります。引張強さ、伸びは材料が破断する時の最大荷重、最大変形量を示す指標であり、構造物が壊れる際の挙動を評価する意味でとても重要となります。接合継手の場合は、特に引張強さ、伸びといった特性を把握することが特に重要となります。接合継手を重ね継手として用いる場合、せん断方向と剥離方向では大きく特性が異なります。そのため、せん断引張強度、剥離引張強度を別々に求めることとなります。

[適用範囲、注意点]
 降伏点、引張強さ、伸びといった機械特性は引張速度、環境温度に影響を受けます。そのため、引張速度、環境温度は規格(JIS規格)によって標準化されています。また、材料の変形、拘束状態が機械特性に影響をおよぼすことから、試験片の形状も規格により標準化されています。継手接合継手の評価の際、降伏点、引張強さ、伸びといった特性のみならず破断モードも評価の対象となります。接合不良で接合界面ではがれていないか、十分な接合領域を形成しているかといった点も重要となります。

[事例]
 抵抗スポット溶接による接合継手を例にとると、せん断引張試験片(TSS: Tensile Shear Strength)、十字引張試験片(CTS: Cross Tensile Strength)という形で規格化されています。せん断引張試験片、十字引張試験片はそれぞれJISZ3136、JISZ3137で規格化されています。材料の板組みに応じて、目標とする接合強度が規定されており、継手品質が等級化されています。

[トレンド]
 自動車車体軽量化のために、高張力鋼(ハイテン)、アルミ合金、CFRP(CFRP: Carbon Fiber Reinforced Plastics)といった軽量、高強度材料の車体への適用が検討、実用化されています。それら、各々の同種材料同士の接合継手はもちろんのこと、異種材料同士の接合継手も車体構造に適用されていることから、その特性把握は重要となります。
 
 異種材料接合継手は同種材料同士の接合継手とは異なる機械特性を示す場合があります。また、CFRPは含有されるカーボンの体積率、配向状態で素材の機械特性が大きく異なります。その結果、CFRPの接合継手の特性もそれら因子に大きく影響を受けます。高張力鋼(ハイテン)は機械特性、特に降伏点、引張強さが従来の軟鋼とは異なるため、その影響を受けます。異種材料接合は接合工法の開発そのものが重要なのはもちろんのこと、接合継手の特性把握も重要となります。異種金属同士の接合部は一般的に金属間化合物とよばれる反応層を介して接合されています。破壊が生じる際、被接合材の内部で破断が生じるか、被接合材と反応層の界面で破断が生じるか、反応層の内部で破断が生じるかで特性が異なります。そういった意味で、破断がどこで生じているかを明らかにすることはとても重要となります。その際、走査電子顕微鏡(SEM: Scanning Electron Microscope)により接合界面を観察することで反応層の状態を明らかにしたり、破面を観察することで継手強度発現のメカニズムを明らかにすることができます。

[今後]
 より詳細にミクロな現象とマクロな機械特性の関係を明らかにするために走査電子顕微鏡(SEM)による観察を行いながら、引張試験を行うということも研究室レベルではありますが行われています。継手強度発現は複数の因子が複雑に影響を及ぼしています。そこで、継手強度の支配因子と接合条件を効率的に決定するためにAI(AI: Artificial Intelligence)、およびIoT(IoT: Internet of Things)によるビッグデータの活用が有効となるかもしれません。